水平線は丸かった?

芦屋での訓練も終わりに近づいたある日の訓練で、コマンダーが突然「ハイハブコントロール(I have control)」

と自ら機体の操縦しはじめた

「ユーハブサー」

コマンダーの意図がわかりかねながらも操縦桿から手を離すと機体は上昇を始めた

コマンダーは何をする気なのか見当もつかないが、さらに上昇を続けていく

 

「水平線が丸いのを知っているか?」

コマンダーの意図がなんとなく理解できた

「高くまで上ると水平線が丸く見えるんだ、見たことが有るか?」

「いえありません」

「3万フィートまで上がる」

3万フィートはメートル法では9000メートルになる

 

さらに高度は上がるが次第に機体の性能の限界が近づいてきた

姿勢がふらつきだし上昇率ドンドン落ちていく

残念ながらその時に乗っていたT-1は基本的な操縦を学ぶためには優れた機体ではあったが性能的にはとても優れているとは言えないレベルだった

民間の旅客でも1万メートルの高度を楽に飛ぶことが出来るし、何10年も前に米軍のB-29が1000mも高い高度を飛んでいたのである

 

「芦屋タワー、〇〇(私のコールサイン)アウトオブエリア(訓練空域から出ている)ユースコーション(注意しなさい)」

「らじゃー」

と言いながらもどうすることもできない

高空では空気密度が低く、旋回の為にバンクをとると相対的に翼面積が小さくなり揚力が小さくなって飛ぶことが出来なくなる

何度もストン、ストンと落ちながらも少しずつ上っていくが管制がいら立ちを募らせながら何度も警告してくる

 

「すまん、無理なようだ降りるぞ」

仕方ないことだった

だが問題はそこでは無かったと思う

その日は上空の雲が多くて上まで上った時には水平線を見るどころの話ではない

視界が良ければ何も3万フィートまで上らなくても水平線は丸く燃えるのだからほどほどでも例えば2万フィートでも水平線は丸いのは確認できる

 

残念な結果に終わりはしたがコマンダーがとても情のある人だと確認できた出来事だった