いきなりの空中戦
訓練を順調にこなしていたある日の訓練のこと、その日の同乗教官は初めての教官だった。
訓練空域まであと半分かなというところまで来たときに教官がいきなり
「アイハブ(I have)]
とスティック(操縦稈)を私から取り上げた
航空自衛隊の複座機はタンデムになっていてそれぞれに連動したスティックがある。
操縦の受け渡しは学生が教官に操縦を渡すときは教官のアイハブに対して
「ユーハブ、サー」
と答えてスティックから手を離すのだがその時は突然で教官に強引に取り上げられた形になった
いきなり操縦を取られたことで、俺何か不味い事をしたのかと思う間もなく急激な高Gに襲われた
それは教官は期待を急旋回に入れたのだった
何が起こったのかわけもわからず座席に押し付けられながら上を見ると1機のTー34がいた
水平旋回で2機でぐるぐる回り続けている
昔の空中戦でいう巴戦をやっていた
その後の経験を元に考えてみると5Gほどはかかっていたと思える
しばらくGに耐えていると
「うあわ、負けた」
教官の声と同時にこれもまたいきなりGが緩んだ
2人の教官は同期で実戦部隊から教官として赴任したばかりだった
もちろんやっていいことではないが、戦闘機に乗って戦うという事はこんなに苦しいことだ。
どんなに頑張っても負けたら死ぬことになるという事を考えるきっかけになった事件だった