人身事故

忘れもしない、それは1年の最後を締めくくるはずの日に起きた

 

その日は訓練もなくブルーインパルスだけが訓練を行い、終了後には冬休暇となって故郷に帰るはずだった

ブルーインパルスも訓練を終わり、さあ休暇だと全員が身の回りの物を整理し始めバタバタと身辺の整理を始めたばかりの時に

 休暇中止、休暇中止。その場に待機せよ

廊下の向こうから大きな声が響いた

しばらくすると何が起きたのかがわかってきた

どうやら事故があり整備員に死人が出たらしい

通常の訓練で整備員が死ぬことなどありえない、全く予想外の出来事だった

基地内は騒然となりあわただしく人が行き来する事態となった

 

自衛隊で死亡者が出た場合にはその状況次第で葬式のやり方が変わるのだが、その時は基地葬となった

基地の全員で葬式を行うのである

それは事故にあった当人に何の落ち度もなく、勤務中に避けようも無い事態に巻き込まれて死に至ったことを示している

事故の原因については思うところがあるので後述することにする

 

私たちは葬儀の準備等の補助を担当することになり、うろたえながらも式当日を迎えた

死んだ整備員は新婚で結婚後1年もたっていなかったことを知ったのは式の当日だった

 

基地葬とは言っても誰もが体験する葬式と何も変わらない

何も実感が湧かないうちに焼香の段になり死んだ整備員の妻に焼香を促すアナウンスがあった

その時に私が見たのは、まだ目も開かない赤ん坊を抱きかかえた女性であった

その人は何度も席を立とうとするが赤ん坊をを抱えてなかなか立つことができない

隣にいた恐らく彼女の父親であろう人が赤ん坊を抱きかかえて彼女を立たせたが、歩き出すために傍にいた隊員の支えが必要なほどであった

 

その日のことはビデオで録画した映像を再生すがごとく鮮やかに思い出すことができる