どうしようもない

高速失速と判断しスティックを引く力を緩め再び引き戻す

ドドド

やはり失速の兆候だ、もう一度力を緩めるがループを行うために上昇中だこれではループは出来ない

 おかしい

速度計に目をやるとすでに速度は200ノットを切っており更に針は下がり続けている

あっ!そこでようやく事態が呑み込めた

速度計のドラムばかりを注視して速度計のもとの針を見ていなかったのだ

つまり320ノットで始めなければならない所を220ノットで始めていたに違いない

気が付いたときにはすでに手遅れ、すでに予期せぬ垂直状態になっていた

事態が呑み込めれば後がどうなるかは想像できる

スティックもラダーもスカスカで手ごたえはなく落ちるに任せるのみである

 

T-1は非常に安定性のある機体で、仮にスピン(錐もみ)状態に入っても手を離せば自分から回復するほど安定しているので、頭では大丈夫と思いながらも心は恐怖と不安でいっぱいだった

速度計との睨めっこはしばらく続いたがやがて回復するに充分な規則が付き必死に操縦かんを引いた

 

うっかりでは済まされないミスをしたものだ、戦争中なら確実に死んでいるようなミスだから

 

私は元来大雑把な性格をしている

田舎に生まれ田舎で育ってなるがままに生きてきていた

周りも、そういえば親父も適当な性格をしていたように思う

 

空で生きていくためには致命的なことではないか

後にそういう考えに至った