重要人物

隊舎に近づくなという事はそこに私たちがあってはいけない重要人物がいることは間違いない

どんな理由でその人物が隔離されているかは全く想像も出来なかった

しかし秘密というものはそうそう長続きするものではない

しばらくするとそこにいる人物が誰なのかは全員が知ることになった

 

その人は雫石の事故で全日空機と衝突した自衛隊機の訓練生だった

当時事故から10年近く経過していたが長い謹慎生活を終えてパイロットとしての技量回復のための訓練を受けていたのだった

それだけの期間操縦をしていなければ第一線で飛べるはずもない

それでも技量回復訓練をわざわざ受けていたのは、最後はパイロットとして人生を送らせてやろうという温情だったようだ

 

彼は事故当時訓練生で訓練中は教官の指示に従うのみである

だからと言って責任が全くないわけではない

彼からすれば教官についていき教官機が操縦不能になり指示を受けて回避操作に入ったのは衝突2秒前で避けようもないことだった

 

それでも戦闘機パイロットとしての人生はそこで終わってしまった

それがパイロットの宿命である

 

その後一度だけレクレーションのソフトボール大会で一緒に参加することはあったが

近づく者も話しかけるものも一人もいなかった

私たちも

ーああ、あの事故の人かー

と思ったものの、無関心を装って横目で見るだけであった